太鼓の達人とは

札幌市東区 テイセンボウルにて(太鼓の達人7)

「太鼓の達人」に関しての私感を簡単に記しました。


「他社と同じことはしない」
音楽ゲームブームにアンチテーゼを投げかけるナムコの挑戦作


ビートマニア(コナミ)から端を発する「音楽ゲーム」のブームは瞬く間にゲームセンターを席巻した。コナミに限らず実に様々なメーカーがこれに追随、多種多様な音楽ゲームが登場した。中にはゲームシステム・ルールの類似から訴訟騒ぎにまで発展するなど、かつて格闘ゲームブームでも存在したアーケードゲーム特有の負の面を見せつけることもあった。
そんな音楽ゲームも一時ほどの勢いは無いものの根強いジャンルとして定着した感がある。今、ちょっと大きなゲームセンターに行ってみると空間の多くを占めるのはネット通信を媒体としたゲームが主流だが、音楽ゲームも必ず存在する。現在多いのはコナミ製の「ビートマニア2DX」シリーズ、「ポップンミュージック」シリーズ、そしてナムコ製(現:バンダイナムコゲームス)の「太鼓の達人」であろう。
これらのゲームを比較してみると、メーカーの個性が非常によく出ていると思われる。先述のコナミ製の音楽ゲームはとにかくボタンが多い。ビートマニア2DXでは鍵盤7つにターンテーブルがひとつあるので、インターフェイスとしては8になる(これはゲームモード次第で減らせるが、それでも4)。ポップンミュージックもボタンが9つもあり、これもゲームモードに寄って減らすこともできるが、5ないし3(対戦のみ)である。
では太鼓の達人はどうかというと、これが非常に単純。なにしろ置いてあるのは太鼓とバチ。インターフェイスとして活用する部分は、面とふちのみ。つまり2しかないことになる。操作系が複雑・マニアックになっていった音楽ゲームの歴史を鑑みても、ここまで少なくしてなおかつヒットし続けている例は極めて稀といえよう。古来、ナムコには「他社と同じようなことはしない」という風潮があった。そのスタンスが名作と呼ばれるゲームを次々と生みだした結果になっているわけだが、その源流はしっかりとこの「太鼓の達人」にも引き継がれているのである。

これぞナムコスピリットの真髄!
「叩く」という動詞を極限まで高めた


ところで、ナムコというと様々な名作・伝説・珍作とされるゲームが多数存在するが、1985年の作品まででは、それらには必ず共通の要素がある。それは基本アイディアとなる「動詞」に特徴があることである。以下に挙げてみたので考察して頂きたい。

・「ギャラクシアン」→「狙い撃つ」
・「パックマン」→「食べる」
・「ディグダグ」→「掘る」
・「マッピー」→「跳ねる」
・「リブルラブル」→「囲む」
・「フォゾン」→「つなげる」
・「ゼビウス」→「撃ち分ける」
・「ドルアーガの塔」→「探す」
・「モトス」→「弾き落とす」
・「メトロクロス」→「走る」

単に動詞をそのままイメージしているのではなく、一歩踏み出してとことんまでアイディアを煮詰め、ギリギリまで余分な肉を削り落とすまで練り込まれたナムコのビデオゲームからは強烈なプライドと自負心がうかがい知れるのである。
「太鼓の達人」を示す動詞はただひとつ。「叩く」だ。この動詞はどちらかというとビデオゲームよりもエレメカで使用されることが多く、「ワニワニパニック」などのいわゆる「モグラたたき」系統のゲームがこれに該当するだろう。しかし、この「太鼓の達人」においてこれほど的確に表現できる言葉もないであろう。
単純に「叩く」だけではなく「叩きわける」動作もあり、なおかつ一般の人はおろかあまりゲームに興味のなかった方、お子様までに音楽ゲームの裾野を広げた功績は称賛に値する。先述のコナミ製の音楽ゲームは基本的に立ってプレイすることが前提で、子供の立ち入る隙がないし、踏み台を用意しているロケーションなどある方が珍しい。完全に大人のものになっているし、そのインターフェイスの複雑さからたとえ大人でも初心者おことわりのような風潮すら漂っている。これに対して太鼓の達人は徹底的に操作を単純にし、太鼓そのものをモチーフとしたかわいらしいキャラクターを前面に押し出した結果、相当な幅の支持を得ることに成功した。子供用のバチや踏み台を用意するロケーションも増え、これまでビデオゲーム等と縁のなかったスーパーのゲームコーナーなどにも設置された。また、本作を福祉機械として活用し、高齢者向け・リハビリ用のバージョンまで存在する。たとえ広く認知されているコナミ製の音楽ゲームでも、福祉活用は成し得なかった偉業である。
また、単に一般客や子供向けだけのゲームでは終わっておらず、隠しモードで「鬼」譜面や倍速モード・あべこべモードなどマニア向けの要素もしっかりと含んでいる。さらに最近の作品では収録曲において「ナムコオリジナル」というジャンルにおいて、これでもかと言うほどのアクの強い曲の数々。こんな曲を作ってしまうのも、またナムコらしいといえるのではなかろうか。新曲なのにどこか懐かしささえ感じてしまうのは、筆者だけであろうか。
ともすれば本質を忘れがちな現在のビデオゲームにおいて、ナムコが送りだした「太鼓の達人」からは、往年の源流が根底に流れていると感じるのである。これらのスピリットを感じた時に、あなたのビデオゲーム感がきっと変わることだろう。

ナムコが関わっている他の音楽ゲーム

「ギタージャム」など他にもいろいろとナムコ製の音楽ゲームは登場している。しかし、今となっては「太鼓の達人」以外でお目にかかるナムコ製の音楽ゲームは残念ながら皆無に等しいだろう。
そんな中、今でも見かける可能性があるのは、ナムコが販売として関与した「パカパカパッション」(開発:プロデュース)と、「テクニクビート」(開発:アリカ)であろう。どちらも通常のビデオゲーム筐体で稼働するゲームなので、大型筐体のゲームと違ってメンテナンスも楽であり、手軽に稼働させられる利点がある。特にパカパカパッションは現在でも日本全国で90を超えるロケーションで稼働され続けている。3作目以降続編のないゲームとしてこれほど長寿なビデオゲームも昨今のアーケード業界では珍しい。
これらのゲームは、プレイステーション(テクニクビートは2)に移植されている。

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